【寄稿】「ひとりからみんなのデザインへ」——ファッションの力で福祉のイメージを変える
おしゃれを楽しむことを、あきらめないために
布施田祥子さん 株式会社LUYL 代表取締役・一般社団法人NiCHI 共同代表理事
布施田さんは、自身の病気の経験をきっかけに、「おしゃれをあきらめない」ための靴づくりをスタートし、株式会社LUYLおよび一般社団法人NiCHIを立ち上げました。
本記事では、下肢装具に対応した靴ブランド「Mana’olana(マナオラナ)」の開発や、インクルーシブファッションの考え方について紹介いただきました。「ひとりの困りごと」を起点に、誰にとっても使いやすく心地よいデザインへと広げる取り組みについてご寄稿いただきました。

IMUA(メンズビジネスシューズ)、MAKANI(サンダル)、
EKAHI(ダブルストラップパンプス、ブラック)、EKAHI(ダブルストラップパンプス、グレー)、OLINO(パンプス、ローズピンク)
私がファッションに関わる活動を始めたのは、自分自身の経験がきっかけでした。 脳出血による片麻痺と、潰瘍性大腸炎(現在はクローン病)によるオストメイトとしての生活。これらの変化によって、以前のように自由に服を選ぶことが難しくなりました。
私は幼いころからファッションが大好きで、洋服や靴、バックやジュエリーに至るまでそれらを選ぶ時間が何より楽しく幸せに感じていました。
10代後半で難病と診断され、就職することが困難でしたが、自分なりの働き方を模索し倒れる前まで、ずっとファッションに携わる仕事をしていました。特に靴は大好きで、多いときには100足近く持っていた時期もあります。それが、片麻痺になり下肢装具1)をつけた生活になったことでほとんど履けなくなってしまったのです。(1)下肢装具:足の動きを補助し、歩行をサポートする装具。)
「おしゃれが大好きなのに、障害があったらもうおしゃれも楽しめないの?」
そう思ったときに気づいたのは、選択肢の少なさでした。「障害がある人向けの服」や「下肢装具対応の靴」はあるものの、どれも“仕方ないから着る”という印象が強かったのです。ファッションは本来、「自分らしさ」を表現するもの。それなのに、障害があることで「選ぶ楽しさ」を奪われてしまうのはおかしいのではないかと感じました。
そこで、自分が「履きたい!」と思える靴を作りたいと考え、ハワイ語で「自信・希望」を意味する、下肢装具があってもおしゃれに履ける靴ブランド「Mana’ olana(マナオラナ)」を立ち上げました。さらに、より多くの人が「ありのままに、自分らしく光り輝いて生きられる社会」を目指し、2019年に株式会社LUYL(Light Up Your Life)を設立しました。
2024年4月にはファッションに携わる仲間たちと共に、一般社団法人NiCHIを立ち上げ。インクルーシブファッションをテーマに、誰もが自分らしく、心地よく生きられる世界を目指して活動を広げています。

下肢装具に合わせたセミオーダーパンプスEKAHI
福祉=暗くてダサい? そんなイメージを変えたい
「福祉」という言葉が持つイメージは、どうしても“暗い・ダサい”になりがちです。これまでの障害者向け製品は、ほとんどが「歩ければいい」「着られればいい」「使えればいい」と、機能面ばかりが重視されてきました。もちろん、機能は大切です。しかし、それだけでは本当に使う人の気持ちに寄り添ったデザインとは言えません。
私が感じるのは、作り手の「独りよがり」が多いということです。どこか“ファンタジーデザイン”になっていて、実際に使う人のリアルな声が反映されていないように思うのです。例えば、「車椅子の人が着やすい服」として作られたものが、実際にはシルエットが美しくなかったり、だらしなく見えたり。当事者が心から望んで着るケースは多くありません。
本当に必要なのは、「機能+デザイン」です。使う人の心がドキドキ、ワクワクして、笑顔になったり、前向きになったり。それがファッションの持つチカラで、そういう視点がこれからの福祉には欠かせません。
「ひとりの困りごと」が、みんなの快適さにつながる
障害がある人にとっての「困りごと」を起点にデザインされたものは、実は多くの人にとっても使いやすく、快適なデザインになる可能性が多くあります。例えば、片手でも着やすい服や靴、座った状態でもシルエットが美しい服。こうしたデザインは、時間に追われる会社員や育児中の方、高齢者にとっても便利なものになるはずです。
マナオラナの靴もその一つです。セミオーダー式で、左右サイズ違いでの購入が可能。障害の有無に関係なく、誰もがファッションとして楽しめるデザインを大切にしています。
最近ではこのような考え、手法をインクルーシブデザインと言いますが、私たちNiCHIの中ではこの言葉をもっとわかりやすく**「ひとりからみんなのデザインへ」**と表現しています。最初は一人のニーズから生まれたものでも、それがより多くの人にとって価値あるものに変わる。
「特別なもの」「障害者用のもの」ではなく、「どんな人にも当たり前の選択肢」として世の中に広がる無限の可能性があるものなのです。
デザインが人の心を変える
ファッションやデザインには、人の気持ちを前向きにする力があります。
例えば、自分が本当に好きな服を着たとき、気分が上がることは誰しも経験があるのではないでしょうか。障害があっても、好きなものを選べることで「自分らしさ」を取り戻せます。私自身、下肢装具のせいで履きたい靴をあきらめたときは、とても悲しかったです。しかし、下肢装具があっても履けるおしゃれな靴を作ったとき、「またおしゃれを楽しめる!街へ出ていきたい」というワクワク感が戻ってきました。
ファッションやデザインの力で「我慢する」「諦める」「遠慮する」から解放される人が増えたら、暗い、ダサいと思われがちだった福祉のイメージはもちろん社会全体が明るく、元気な雰囲気に変わっていくはずです。

手前から1足目がスウェード素材のブラック、2足目はエナメル素材の
グレー&ブラック、3足目がスウェード素材のボルドー&グレー)

ファッションの力で、社会を変える
現在、私は毎月2回不定期で試着販売会を開催し、お客様一人ひとりの足の状態や装具の形に合わせて、靴を提案しています。また、NiCHIでは、ファッションをテーマにしたイベントや、座談会・ワークショップを定期的に実施し、さらに学生や専門家と一緒にデザイン性のある下肢装具の開発をしています。企業と協業しインクルーシブファッションの商品開発など、ファッションの可能性を広げるための活動を続けています。
企業やデザイナーの方々には、「障害者向けの商品を作る」のではなく、「誰もが選べるデザイン」を目指してほしいと伝えています。インクルーシブデザインが、より多くの人にとって快適で楽しいものになる。そんな未来を、ファッションの力で実現したいと考えています。
「おしゃれをあきらめないことは、生きる楽しさにつながる」
そう信じて、これからも楽しく活動を続けていきます。
株式会社LUYL https://manaolana.jp/
一般社団法人NiCHI https://www.nichi.or.jp/


