【寄稿】服の不自由の最大公約的な解決と当事者中心のデザイン
笈沼 清紀さん 株式会社ケアウィル 代表
笈沼さんは、「服の不自由」を解消するために、当事者、作業療法士・看護師などの専門職、デザイナーとともに、機能とデザインを兼ね備えた衣服を開発し、販売してきました。
この記事では、三角巾とケープ(ポンチョ)が一体化した衣服、車いす利用者向けのレインウェア、洗濯ネットバッグなど、当事者の声から生まれた数々の製品を開発する上で大切にしてきたことについてご寄稿いただきました。
私たち「ケアウィル」は、「ケア:看護・介護」と「ウィル:意思」を組み合わせた名前で、利用者様の「こうありたい」「したい」という意思を尊重し、看護や介護に関する服づくりをしています。2019年の設立以来、障害や病気により「服の不自由」を感じている方々のために、当事者、医療・介護の専門家(療法士、看護師、介護士)、デザイナー、工場が協力し、新しい製品を生み出してきました。すべての製品が、グッドデザイン賞を受賞しています。
例えば、「アームスリングケープ」(写真1)は、三角巾とケープ(ポンチョ)が一体化した服です。腕を服の中の袋に預けることで、腕の重みを分散し、肩や首の痛みを軽減。長時間の着用でも疲れにくく、安定した歩行をサポートします。脳卒中などで片麻痺のある方や、肩や腕に怪我をされた方が、リハビリや日常生活で利用されています。

この製品は、石灰沈着性腱炎により肩の痛みに悩む女性の声から生まれました。「病院の待合室で肌を露出した三角巾姿は気が滅入る」三角巾は「一人で着脱できない」「首の痛みで疲れる」「おしゃれを楽しめない」といった悩みを解決するために、保温性、着脱のしやすさ、デザイン性にこだわりました。開発にあたっては、さまざまな症状を持つ23名の方々に試作品を試していただき、改良を重ねました。
現在、400名以上の方にご愛用いただき、23の病院と12の施設で導入されています。また、7つの学校でICF(国際生活機能分類)の「活動・参加」を学ぶ教材としても採用されています。
さらに、今年の4月には、夏でも快適に着用でき、腕の固定感を簡単に調整できる「アームスリングシャツ」(写真2)が発売されます。大阪公立大学、東京都立産業技術センターとの共同研究から生まれたこの製品は、急性期からリハビリ期まで、幅広いニーズに対応します。

れる「アームスリングシャツ」
そして、昨年、「⾞いす利⽤者⽤レインウェア」(写真3)の販売を開始しました。この製品は、「⾬の⽇でも友達とカフェに⾏きたい」という⾞いすをご利⽤の⼥性の想いを実現するために開発された、⾬の⽇の外出をサポートするレインウェアです。
この⼥性は、⾜だけでなく⼿の動きにも制限がありました。⼀般的な⾞いす⽤レインウェア(写真4)では、「⽣地が⼤きくて重く、介助者がいないと着脱が困難」「内部が蒸れる」「デザインが限られ、ファッションとして楽しめない」といった課題がありました。そこで、彼⼥と当社、服飾の専⾨家である私の⺟と共に、10ヶ⽉をかけて試作を重ね、ひざ掛けとジャケットが分離し、⼿の⼩さな動きでも着脱や折り畳みが可能な、洋服としても楽しめるデザインを実現しました。

レインウェア」

レインウェア
完成した⼀点物のレインウェアは、その⼥性にプレゼントされましたが、「アームスリングケープ」と同様に、より多くの⽅にご利⽤いただけるよう、また、さまざまな⾞いすに対応できるよう改良を重ね(写真5)、⼯場での⽣産も実現。現在では、280名を超える⽅々にご愛⽤いただいています。また、今年3⽉の再⼊荷では、ベージュに加え、新⾊のブラックとグリーンが加わり、⾊の選択肢も広がりました。

最近では、病院や施設でのご利⽤も増加しており、建物内での防寒や、送迎バスから建物までの移動時にもご活⽤いただいています。病院や施設のロゴをプリントするサービスも提供し、楽しみながら着⽤いただけるよう⼯夫しています(写真6)。さらに、⽇進医療器やWHILLなどの⾞いすメーカーとの連携により、利⽤機会が広がっています。

最後に、服ではありませんが、服の衛生を保つために大切な生活行為である「洗濯」をサポートする「洗濯ネットバッグ」(写真7)を紹介します。この製品は自立し、脱いだ服をそのまま洗濯・乾燥できるランドリーバッグです。リウマチの方の「洗濯がつらい」という声から開発されました。
洗濯物の出し入れや持ち運び、物干しが楽になります。洗濯中の絡まりも軽減。障害や病気に関わらず好評で、3,200名以上が愛用、5,800個以上を販売しています。家族ごと、旅行やジムに行くときなど、利用シーンに応じて複数を使われている方が半分以上いらっしゃいます。

これらの製品を作る中で、私たちが学んだのが「最大公約的な課題の解決」です。障害や病気をお持ちの方の服に関する課題は、個々に大きく異なり、すべてを解決できる単一の製品を作ることは残念ながらできません。でも、できる限り多くの課題の共通項を見つけ、それを解決する機能を有する服であれば、より多くの方にご利用いただけます。
製品開発のヒントは、常に障害・ご病気のある当事者の中にあります。そのヒントを形にするのが、私たちの仕事です。そして、機能性と同じくらい重要なのがデザイン。日常生活に溶け込み、着心地が良く、着る人も見る人も前向きな気持ちになれるようなデザインを追求することが大切です。デザインとは、形、色、生地の組み合わせです。このようなこだわりを大切にしながら、これからも当事者中心の服づくりを続けていきたいと思っています。

