※パンフレットと同じ内容を本ページに記載しています。
ファッションのインクルーシブデザインを
目指して
~あらゆる人にやさしいファッションとは~
「障害等による機能低下、体型変化等に配慮した衣服の開発と普及のための基盤整備」研究班
※謝辞:本冊子は、公益財団法人カシオ科学振興財団 第14回研究協賛事業 採択研究「障害等による機能低下、体型変化等に配慮した衣服の開発と普及のための基盤整備」の研究費により作成しました。
はじめに
当研究について
当研究は公益財団法人カシオ科学振興財団 第14回(令和5年度)研究協賛事業にて採択され実施しました。研究テーマは、主に障害等に配慮した衣服の研究と実用化であり、障害等に配慮した衣服の研究・実践の推進と基盤整備を目指しています。産官学の連携による障害に配慮した衣服に関する協働プラットフォームの構築を視野に入れています。
研究目的
当研究は、大きく分けて二つの目的があります。一つ目は、障害等に配慮した衣服の研究の推進、二つ目は、社会において「障害等に配慮した衣服の制作、販売」および「衣服が手頃な価格で気軽に入手できる環境」の促進です。
研究メンバー
研究テーマ「障害等による機能低下、体型変化等に配慮した衣服の開発と普及のための基盤整備」申請者
※2023年申請時。( )内は、2024年11月現在
代表研究者
平林 由果 金城学院大学 生活環境学部 環境デザイン学科 教授
共同研究者
大館 千歳 国立障害者リハビリテーションセンター 病院 看護部長
大野 淑子 山野美容芸術短期大学 美容総合学科 教授(客員教授)
小野 栄一 国立障害者リハビリテーションセンター 研究所顧問
佐々木 健 国立大学法人筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 准教授(客員研究員)
清野 絵 国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 障害福祉研究部 心理実験研究室長
濱西 冨美子 専門学校浜西ファッションアカデミー 校長
徳永 千尋 日本医療科学大学 保健医療学部 教授(名誉教授、作業療法士)
研究協力者 ※2024年11月現在
小峰 孝博 株式会社三和製作所 社長室 CSR推進室
雙田 珠己 元熊本大学教授
田部 絢子 金沢大学 人間社会研究域 学校教育系 准教授
情報提供サイトの紹介
研究の一環として、下記の情報提供のためのウェブサイトを作成し、公開します。
ファッションのインクルーシブデザインを
目指した情報共有サイト
~あらゆる人にやさしいファッション情報サイト~
公開予定:2025年1月
障害や加齢等の機能低下や体型変化等に配慮した衣服の開発や課題解決を促進するため、必要な情報を発信・共有し、一緒に考えるためのウェブサイトを作り、公開予定です。
このウェブサイトでは、関連する衣服についてのイベントのお知らせ、衣服の課題について、機能低下や体型変化等に配慮した衣服を広げる取組や情報、そうした衣服の工夫などについて紹介する予定です。
このウェブサイトを通して、①機能低下や体型変化等に配慮した衣服に関心のある人たちがつながり、そのような衣服についての取組が広がること、②機能低下や体型変化等に配慮した衣服の作成や販売が進み、障害のある方や高齢の方が求めている服が手頃な価格で気軽に手に入れることができるようになることを目指しています。
みなさまのお声をいただいて内容を充実させていく予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
Fashion for all を目指して
” ファッションショー&ワークショップ -服の多様性-”
着たい服で輝く
主催:金城学院ファッション工房
報告:平林由果(金城学院大学)
おしゃれには人を元気にする力があります。金城学院ファッション工房は、学院創立120周年の記念事業の一つとして2009年に誕生しました。おしゃれをあきらめている方に、装いを楽しんでもらうための衣服支援活動を行っています。
2024年9月7日(土)に、「Fashion for allを目指して ~着たい服で輝く~」と題したイベントを実施しました。参加者は62名でした。ファッションショーでは、ファッション性と機能性を兼ね備えた装いを6名のモデルに着用して頂き、披露しました。ファッションショー終了後、モデルさんを交えてワークショップを行い、衣服に関する課題を探り、解決策について議論しました。また、ファッション工房の提案服を展示して紹介しました。参加者は一つ一つ丁寧にご覧になり、熱心に質問されていました。多くの方に参加して頂いたことに、深く感謝の意を表します。


ファッションショーで披露した提案服の一部を紹介します。
提案1:Tシャツのリフォーム、全開パンツ

前開き、着脱袖付Tシャツ
半袖Tシャツに袖を付けて長袖Tシャツになるようにしました。襟から裾までのオープンファスナーを付け、全開できるようにしたので、被らなくても着用できます。袖は付け外しすることができるため、気温変化にも速やかに対応できます。

全開パンツ
パンツは、全開するようウエストから裾までオープンファスナーにしました。寝たままの状態でも楽に着脱でき、介助者への負担も軽減されます。
提案2:ブラウスとパンツスカートのセットアップ

ブラウス+パンツスカート のセットアップ
前面左右にファスナーを取り付けることで、襟元が大きく開き、被りでも簡単に着脱できます。
ボトムスは、パンツに前スカート布を取り付けた「パンツスカート」です。スカート布が一体化しており、パンツをはくとスカートになるので、着脱が楽です。
提案3:セパレート型ドレス

セパレート型ドレス
後ろあきなので、腕をあげなくても着脱できます。袖は、変形した関節が見えないように、オーガンジーの2重袖になっています。
スカートのウエストは、ゴムなので着脱しやすく、着用中も楽です。スカートは前スカートのみの扇型になっているため、車いすに座ったままで着脱できます。
以上のように、少し工夫することで、楽に着脱できることをもっと多くの方に知ってもらい、誰もがおしゃれを楽しめるようになることを心から願っています。
視覚障害者とファッション
主催・報告:筑波技術大学 佐々木 健
「視覚障害者とファッション」をテーマにイベントを実施しました。
詳細は次のとおりです。
1.日時
2024年11月3日(日)13:30~15:30
2.場所
すみだ産業会館9階第2会議室(丸井共同開発ビル、東京・錦糸町)
※広さ12m×8m、床面積80m²、定員40名(会場は満員で入れない人もいました)
※「第16回サイトワールド2024」のイベントとして実施
3.内容
- ファッションショー
- 点字刺繍・装飾した白杖・触れるTシャツ・触察教材の展示

(右下に黒い糸でサイトワールドと点字刺繍を施したハンカチ)

(音楽の鳴るブルートゥーススピーカーと共に、
装飾した白杖を使ってランウェイを歩くファッションモデル)

(視覚障害者がコスプレの衣装を触れて鑑賞)
4.対象者
このイベントはメインの参加対象者を視覚障害者として立案実施しました。特に視覚障害者でも全盲者(身体障害者福祉法1級、両側視力0.01以下)を中心としましたが、将来的には参加対象者を盲ろう者やろう者などへ拡大することも踏まえて実施しました。
ファッションモデル二人は全盲の女子大生で二人とも教員を目指しています。二人ともモデルの希望者として自主的に応募してきました。一人は「中途失明で光覚あり」、一人は「先天盲で光覚なし」です。
前者のAさんは視覚的に色を見えていた時のイメージで思い浮かべることができます、また色、例えば「赤」の内言(心の中での言語)は音声(心であか)で発音し「赤い視覚イメージ」が想起できます。後者のCさんは先天盲で見た経験がありませんので内言はAさんと同じ音声ですがイメージは視覚以外のイメージです。社会的な障害分類ではAさん、Cさんとも全盲と言われますが、先天/後天の違いはイベントの鑑賞する側にも言えることです。
更に「先天ろう」の人の場合、色の内言は視覚ですが音声言語ではないと推測されます。今回は全盲者を対象者にしましたが盲ろう者やろう者などの視覚・聴覚の障害者全体に拡大する取り組みは今後の課題としました。
5.目的
視覚障害者にファッションや衣服の情報を伝達すること。
6.方法
特に次の四方向から実施しました。
- 視覚的情報(服の種類、生地、色、柄、模様、姿、髪形、持ち物など)を音や言語(音声・要約筆記・手話)で行う方法。
- 触覚的情報(布の触感や質感、縫い目や形、点字刺繍、装飾した白杖、触察教材など)を直接衣服に触れて行う方法。
- 環境情報(部屋の大きさや形、観客席やランウェイ、展示衣服の置いてあるテーブルの場所など)を音や言語(音声・要約筆記・手話)やランウェイ体験歩行で確認すること。
- 文化情報(ファッションショー、コスプレなど)を上記❶❷の方法を組み込んだイベントとして文化体験すること。

(ピンクのライン)
研究活動の一環として、下記のシンポジウムを開催しました。多くの方にご参加いただきありがとうございました。
シンポジウムの内容は資料にしてウェブサイトに掲載予定です。
ファッションのインクルーシブデザインシンポジウム
インクルーシブデザインとは、年齢、性別、障害の有無、文化的背景などにかかわらず、あらゆる人が利用できるデザインを目指す手法です。ファッションにおいては、誰もが快適に着用できる服を一緒に考えることです。このシンポジウムでは、ファッションにおけるインクルーシブデザインの現状と課題について議論し、解決策を模索します。専門家や研究者だけでなく、一般の方々にも広く参加いただき、多様な視点から意見を交換することで、より包括的なファッションの未来を共に考えます。
※当シンポジウムは2024年11月9日に開催し、すでに終了しました。
プログラム
開会
司会 徳永千尋 日本医療科学大学/名誉教授 一般社団法人リハビリテーション教育評価機構
開会挨拶
平林由果 金城学院大学/ 教授 公益財団法人カシオ科学振興財団採択研究 研究代表者
第1部
ファッションを通じたインクルーシブ社会の実現のために~新しい価値創出の可能性を探る~
【本シンポジウムの開催趣旨・ウェブ紹介と作成協力のお願い】
小野栄一 国立障害者リハビリテーションセンター/ 研究所顧問
【当事者・家族の立場から 困ったこと、工夫したこと、解決してほしい課題など】
- 視覚障害者の服装選び
山岸加奈子氏 トロンボーンソリスト 一般社団法人日本ケアメイク協会/ 理事長 - 多発性内軟骨腫症の紹介
富田公美氏
【企業の立場から 何故始めたか、どんな課題があるかなど】
実例紹介を通じて
中澤幸子氏 株式会社SACHI/ 代表取締役
【研究者の立場から 何故始めたか、どんな課題があるかなど】
雙田珠己氏 元熊本大学教授
第2部
誰でもおしゃれを〈取組の例〉
【公益法人・大学の取組】
- 共用品とおしゃれについて
星川安之氏 公益財団法人 共用品推進機構/ 専務理事 - 美容福祉と美齢学
大野淑子氏 山野美容芸術短期大学/ 客員教授
【人材育成の取組】
身体障害者のファッション教育の取組み
鈴木綾氏 NPO 法人エスプリローブ/ 代表理事
【企業の取組】
- 服のお直しサービス「キヤスク」の紹介
前田哲平氏 株式会社コワードローブ/ 代表取締役 - インクルーシブファッション「SOLIT!」の紹介
田中美咲氏 社会活動家・ソーシャルデザイナー - 感覚過敏の課題解決アパレルブランドの事例紹介
加藤路瑛氏 感覚過敏研究所/ 所長
第3部
情報交換会
閉会挨拶
編集・作成:国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 障害福祉研究部 心理実験研究室
発行者:「障害等による機能低下、体型変化等に配慮した衣服の開発と普及のための基盤整備」研究班
発行日:2024年12月


