【寄稿】体の不自由な方の衣服について思うこと

濱西 冨美子さん・濱西 恵子さん 専門学校浜西ファッションアカデミー・認定職業能力開発校埼玉ファッションアカデミー

濱西冨美子さん・濱西恵子さんは、長年にわたり衣服づくりの教育と実践を行ってきました。また、国立障害者リハビリテーションセンターでの体の不自由な方に向けた衣服の相談や製作に、衣服づくりの専門家として協力しています。

本記事では、ファッションショーや衣服づくりのなかで利用者の声や経験から学んだ「配慮」と「普通のおしゃれ」の両立についてご寄稿いただきました。


私は埼玉県所沢市でファッションの専門学校と認定職業能力開発校をやっているものですが、体に障害のある方の衣服作りを本格的に始めたのは、今から十数年前の2010年ごろからです。市内にある国立障害者リハビリテーションセンターの担当者から体に障害のある方の衣服について相談を受けたのが始まりでした。

それ以前にも高齢で体型が変わってしまった方や、車イス利用の方の衣服の提案はしたことがあったのですが、今から思えば机上のアイデアであり、充分に配慮された衣服とは言いがたいものでした。実際に直接利用者さんの声を聞き、介護に携わる関係者の方々、看護師の皆さんの意見を聞く機会を得たことは、気づかされることの多いかけがえの無い体験でした。

リハ並⽊祭のファッションショーで得た気づき

さまざまな形で、国立障害者リハビリテーションセンターの体の不自由な方向け衣服の、実製作に関わらせていただきました。特にコロナ禍以前に、リハ並木祭において講堂で開催されていたファッションショーでは学びが多くありました。実際モデルになっていただいた方からだけでなく、見学者の方々のアンケートからも沢山のご意見をいただきました。

それ以前は、健常であった時から失われてしまった機能を、いかに衣服でカバーするかにフォーカスした服作りを考えていたのですが、それだけが求められているのではないことを知りました。それは「普通に見える服」であり、かつ「障害に配慮された服」ということでした。いくら着やすくても“いかにも”の服は誰も望んでいなかったのです。このことは忘れてはいけない大事なポイントだと思っています。

障害状況に配慮しつつ、どんな服が着たいかをかなえる

利用者さんたちのお話を聞くと、さまざまなニーズがあることがわかります。ある方は、「ある日突然事故で体の一部が動かなくなって、約一年間そのことが受け入れられず、うつ状態になり衣服のことなど全く考えられなかった」と言われました。残された機能の訓練を終えたころから、社会復帰も含めてやっと衣服について考えられるようになったそうです。着脱がしやすいのは最低条件として「ハレの日(冠婚葬祭)もケの日(日常)も障害を意識しない皆が着ているような普通の服をお願いします」と言われました。

途中失明の全盲の方は「たとえ自分は見えていなくてもカラフルな色彩の服で外出したい」「家でもカラフルな色に囲まれて暮らしたい」とおっしゃいました。服の色について改めて考えさせられました。

頚椎損傷の車イス利用の方で「今まで普通に着ていたジーパンとかジャンパーが着たい」と言われた方がいました。ジーンズの生地は厚く硬くそのままではじょく瘡の原因になってしまいます。そこで座位で見えないお尻から膝裏までジーンズの生地を切り抜き、替わりに厚手のニット地をはめ込みました。他者から見える部分は普通でも車イス利用者にとってはちゃんと配慮がなされているジーパンができて大変喜んでいただけました。

このように当たり前のことながら、障害のある方の衣服は残った機能を考慮し、着脱の容易さ、装具の有無など細かく対応し工夫しつつ、どんな服が着たいのかご本人の希望をかなえるべく実際の衣服製作に取り組むこと、これこそ一番大切であると思うようになりました。

この経験から私は現在課題となっているファッションのインクルーシブデザイン(年齢・性別にこだわらずあらゆる人が利用できるデザインを目指す手法)を研究者メインのものに終わらせず、利用者、当事者の声を大いに反映させていけば、より良い成果が期待できるのではないかと考えています。両者の間にしっかりとコミュニケーションが取れる場を作り、風通しを良くすることこそ、今後一層大切になっていくと考えます。

実際問題として、体の不自由な方が既製品の衣服を加工しようとすると街中の「リフォームの店」になると思いますが、ここにおいても個々の個別対応に終わらせずに、ノウハウを含めてヨコの連携も構築できると良いのにと思います。

いつの日か体が不自由でも誰もが楽しめる服がどこでも手に入れることができるようになることを願っています。

車いすの使用者でも着られる黒のジーンズを、車いすに座るマネキンに履かせて展示している様子

車椅子でも着られるジーンズ
(国立障害者リハビリテーションセンターの依頼により
国リハコレコレクション2020のために
専門学校浜西ファッションアカデミーが制作)

深緑色のブラウスと前面にフリルの付いた薄いベージュ色のブラウスとえんじ色のブラウスの展示の様子
ブラウス4点と、フード付きの茶色のロングコートの展示の様子。ロングコートは立ったマネキンが羽織っています。

障害があっても着やすいおしゃれ着のリフォーム
(国立障害者リハビリテーションセンターの依頼により国リハコレコレクション2021のために
専門学校浜西ファッションアカデミーが制作)

略歴

はまにし ふみこ

・職業訓練指導員(アパレル系洋裁科)
・一級技能士(婦人子供注文服製造)

1955年  女子美術大学 卒業

 女子美術大学短期大学部 服飾科高田力之研究室 勤務

1960~1975年

16年間に渡り⽥中千代学園、近藤れん⼦研究所等、12の洋裁関係の学校で学ぶ

1961年〜1979年

現代の名⼯(洋裁)塙経亮⽒に師事

1964年  東京芸術⼤学芸術学部⼈体美学⻄⽥正秋研究室 研究員

1965年  クチュールハマニシ 代表

1976年  専⾨学校 浜⻄ファッションアカデミー 校⻑

1979年  認定職業能⼒開発校 埼⽟ファッションアカデミー 校⻑

埼⽟ファッション事業協会 会⻑

1984年  職業訓練法⼈ 埼⽟ファッションアカデミー運営会 会⻑

1987年  埼⽟県職業能⼒開発協会 理事

はまにし けいこ

・職業訓練指導員(アパレル系洋裁科)
・二級技能士(婦人子供注文服製造)

1977年  武蔵野美術短期⼤学部 卒業

1977〜1980年

専門学校 浜西フアッションアカデミー
職業能力開発校 埼玉フアッションアカデミー 修了

1983~1986年

Hochschule der Kuenste Berlin(ベルリン芸術大学 服飾デザイン科)
Schnitt Fachschule Mueller und Sohn(ミュラー&ゾーン パターン専門学校)留学

1987年~

専門学校 浜西フアッションアカデミー
認定職業能力開発校 埼玉フアッションアカデミー
クチュールハマニシ 所属

~1999年 女子美術大学短期大学部 講師

1995年~ 武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 講師