【寄稿】服が痛い!快適な着心地を求めて〜感覚過敏から生まれたブランドストーリー〜
加藤 路瑛さん 感覚過敏研究所 所長
加藤 路瑛(かとう・じえい)さんは、服に困ったことがある当事者です。
感覚過敏の当事者として感覚過敏についての研究や、困りごとに役立つ商品の開発や販売、講演や執筆等の啓発活動を行っています。
本記事では、発達障害のある方に多い「感覚過敏」、感覚過敏のために生じる服の悩み、感覚過敏に対応して開発した服についてご寄稿いただきました。
はじめまして、感覚過敏研究所の加藤路瑛と申します。当研究所では、感覚過敏の課題解決を目指し、啓発活動、研究、対策商品の企画開発および販売を行っています。その取り組みの一環として、感覚過敏に悩む方々が快適に着用できる服を提供するアパレルブランド『KANKAKU FACTORY』を展開しています。
今回は、感覚過敏における服の悩み、私が服づくりに挑戦しブランドを立ち上げた背景、そして『KANKAKU FACTORY』の取り組みについてご紹介します。
感覚過敏の方の服の悩み
まず、感覚過敏とは何かをご説明します。感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が過敏で日常生活に困難がある状態をいいます。感覚過敏は病名ではなく、発達障害や精神疾患、または脳神経に関わる病気の症状として見られることがあります。現時点では根本的な治療法が見つかっていません。

感覚過敏の一例をあげますと、視覚過敏ではスマホの画面や太陽光などで体調が悪くなることがあり、聴覚過敏では大きな音や騒がしい場所で頭痛がしたり疲れやすくなります。
嗅覚過敏では人によって苦手なニオイは違いますが、化粧品関連や食べ物のニオイに敏感な方は多いです。
味覚過敏では、食べられるものが極端に限られることがあります。
触覚過敏の方は特に衣類に関して悩みを抱えやすく、タグや縫い目、生地の触り心地に敏感で、適した服がほとんど見つからないという状況に直面します。

服づくりを始める前の私の肌着は写真のような状態でした。新しいものを買ってきても、着ることができないのです。タグや縫い目が気になる場合もありますし、生地の肌触りが合わない場合もあります。触覚が過敏な理由もありますが、変化を好まない自閉傾向が新しいものを受け入れないという理由もあるでしょう。

私だけではありません。この写真は、感覚過敏で新しい服が受け入れられず、ボロボロになった服を着続けている方々の服の写真です。このような服で外出できるでしょうか?外に着ていける服がないと悩む人もいらっしゃるのです。

上記は一般的なトレーナーやパーカーの内側の状態がわかる写真です。縫い目が肌に触れて痛みや不快感を感じます。首元にあるタグは痛く、生地の毛羽立ちも針が刺さったように痛く感じます。
衣類とは、おしゃれ以前の前提として、私たちの身体を守る目的がありますが、触覚が過敏な人にとっては、服は痛みや不快感を生じさせる悩みの種なのです。
服づくりへの挑戦とブランド立ち上げ
2021年、感覚過敏の人のための服づくりをスタートさせました。当時私は14歳でした。服づくりの知識は全くありません。SNSで見かけた縫製会社の社長さんに連絡して、服の作り方を教えていただきました。
デザインをして、パタンナーさんに型を作ってもらって、サンプルを作ること。サンプルは1回で終わることは少なく数回かかること。1回のサンプル制作に数万円かかること。サイズ展開にあわせて型紙を増やせば(グレーディング)、1サイズごとにお金がかかること。生地の単価の相場。100~200枚の小ロット生産の場合の縫製代など。
そして、量産化前にデザイン・パターン・試作などで結構なコストがかかっており、それらを回収できる販売価格の設定が必要なことなど。はじめて聞く事ばかりでした。
この縫製会社の方にフリーのパタンナーさんを紹介いただき、服づくりがスタートします。最初にパーカーを作りたいと思いました。縫い目外側・タグなしをコンセプトにしたアパレルブランドを作ろうと。
デザインの方向性はすぐ決まりましたが、良いと思える生地になかなか出会えません。大量のスワッチを触らせていただく過程の中で、ニット生地については詳しくなりました。私自身の好みも知ることができました。天竺のような表裏が違うものは好まず、表裏が同じ肌触りであるスライスが好ましいこと。シルケット加工など毛羽立ちを抑えた生地が安心すること。レーヨンが好みであること。そんな自分が好きな生地の傾向もつかむことができました。

一般的な服なら1、2回の試作で済みますが、私のこだわりが多すぎて、試作を6回も行ってしまいました。コストのかけすぎです。しかし、「今度こそ、納得できるものを!」と試作に臨みました。

そうして、ようやく完成したのがカームダウンパーカーです!

このパーカーには以下の特徴があります。
【こだわりまとめ】
- 縫い目は外側、内側は段差を少なく
- タグなし。プリントも首に触れない場所
- 縫い目を外側にしても、見た目は美しく!
- 感覚の刺激に疲れた時はフードを被ってクールダウン
- マスクができない状況での簡易マスク!
- フードが頭にくっつかない工夫
- バッグを肩にかけても肩の縫い目が気にならない
- 表面がなめらかな生地








カームダウンパーカー以外にTシャツも作っています。パーカーと同じように縫い目外側・タグなしをコンセプトにしたTシャツです。外側に出た縫い目はテープでデザインのようにしています。

肌着、下着、靴下のリクエストは多くいただいているので、なんとか実現したいと思っています。肌着に合う肌触りの良い生地に出会いたいです。そして下着・肌着作りが得意な縫製工場に出会いたいです。
靴下も3年以上をかけて開発していましたが、私が納得できるものが作れず、協力してくださっていた靴下メーカーさんもギブアップしてしまいました。
試作品もありえないくらいのハイクオリティなものでした。ホールガーメントやリンキングでも試作しました。きっと、ある人にとっては最高に良い靴下だったと思うのですが、私が履けない商品を「良いもの」と売るのは違うような気がして全てお蔵入りになっています。しかし、あきらめていません。一緒に挑戦してくださる靴下工場とも出会いたいです。
挑戦を続けるKANKAKU FACTORY
感覚過敏の課題解決アパレルブランド『KANKAKU FACTORY』は試行錯誤しながら少しずつ前進しています。私自身はアパレル事業を主軸にしているわけではなく、感覚過敏の人が快適に暮らせる社会を目指し、その1つのアプローチとして服づくりをやっています。
ですので、アパレル事業を一緒に取り組んでくださる方や牽引くださる方、協業してくださる企業さんと出合いたいと思っています。これからも多くの人々と協力し、感覚にやさしい服づくりや商品開発を続けていきたいと考えています。この記事を通じて、感覚過敏への理解が深まり、この取り組みに共感いただける方々との新たな出会いが生まれることを願っています。
加藤 路瑛(かとうじえい)
株式会社クリスタルロード代表取締役社長。感覚過敏の当事者として感覚過敏の課題解決を目指し、13歳で感覚過敏研究所を設立。以来、感覚過敏の啓発活動、対策商品の企画・販売、さらには大学との共同研究を通じて、感覚過敏の理解促進と社会的支援に取り組んでいる。
課題解決の一環として、縫い目を外側にし、タグをなくしたアパレルブランド「KANKAKU FACTORY」を立ち上げ、感覚過敏の人々が快適に着用できる衣服を展開。
また、「五感にやさしい空間」をテーマにカームダウンスペースやセンサリールーム、センサリーマップの企画・監修に携わっている。
著書:
「感覚過敏の僕が感じる世界(日本実業出版)」
「カビンくんとドンマちゃん〜感覚過敏と感覚鈍麻の感じ方〜(ワニブックス)」
感覚過敏研究所ウェブサイト
https://kabin.life/<https://kabin.life/>
感覚過敏研究所オンラインストアKANKAKU FACTORY

