【インタビュー前編】オンラインで完結。ユーザーと縫い手をつなぐ服のお直しサービス「キヤスク」 

株式会社コワードローブ 前田 哲平さん

前田さんは、オンラインで服を簡単にお直しできるサービス「キヤスク」を起業し運営しています。「キヤスク」は、お直しできる内容や、金額が事前にわかり、すべてがオンラインで完結するため、利用しやすい、これまでになかった新しいサービスとして注目されています。

前編では、前田さんにサービスの特徴や内容、サービス立ち上げの際の苦労した点や、工夫した点等を伺いました。


既成服に「前開き」や「横開き」、マジックテープへの付け替えなど、さまざまなお直しを施し着やすくするサービス「キヤスク」。手頃な料金設定と利用しやすいサービス設計で、服の着脱が困難な方やそのご家族の希望になっています。運営する株式会社コワードローブの前田哲平さんにお話を伺いました。

インタビューを受ける前田哲平さんの写真

服を「気安く&着やすく」お直しできるサービスとは?

――キヤスクの特徴を教えてください。

障害や病気などで服が着にくい方に向けて、服をお直しして「着やすく」するサービスです。「どんなことができるか」「料金はいくらか」がはっきりわかるように、サイトには70種類ほどあるメニュー表を載せていて、メニューにないお直しのご相談もお受けしています。

キヤスク公式サイトのトップページの画像。服のロゴのイラスト及びお直しした服を着用した男女5人のモデルの写真。4名のモデルは車いすに座っています。

「キヤスト」と呼ばれるスタッフがお直しを担当していて、チャット形式で文字と写真を使ってお客様とやり取りしながら進めていくのですが、キヤストの多くは家族に障害のある人がいて、自身も服の悩みを共有しているので、お客様の要望が伝わりやすく感じています。

お直しの依頼から、お直しされた服が戻ってくるまでの流れを表したイラスト

やり取りはすべてオンラインで済み、1回に1〜10着まで送ることが可能です。

学生服や体操着を着やすくするプロジェクト、「青春のキヤスク」も立ち上げ、助成金(特別支援教育就学奨励費)の申請のサポートなども行なっています。

――サービス立ち上げの際、苦労した点や工夫した点は?

類似のサービスがなく、ゼロからつくっていくのが大変でした。まずはファッション好きな車椅子ユーザーの方に、実際にお直しのお店で依頼してもらいました。そこで出てきたのが、以下の問題です。

  • 移動が大変なので、お店に洋服を持っていくのが一苦労
  • メニューにないお直しなので、戸惑われてしまい気まずい
  • どんなふうに直してほしいか伝え方がわからない
  • 料金が「○○円から」となっていて不安。実際、高額になった
  • ファスナーやスナップなど、材料を自分で買ってきてほしいと言われる

なので、この「真逆」をやることにしました。お店に行かずオンラインでやり取りが完結できて、発送はヤマト運輸の匿名配送を利用(※キヤストの自宅に送ってもらうため)。料金はメニュー表をつくり、「○○円」と決めました。それも、気軽に利用してもらいたいので安く設定しています。料金は材料費込みで、特殊なものを使いたいときだけお客様ご自身に用意してもらいます。

利用する人にも働く人にも優しい仕組みづくり

――メニュー表にはさまざまなお直しが載っていますね。

800人近くの方にヒアリングした経験から、僕が叩き台をつくり、それをキヤストにブラッシュアップしてもらいました。

Tシャツ・ポロシャツのお直しのメニューおよび金額の表

キヤストは、メニュー全部をできる必要はありません。手順書があるので、最初お直しのサンプルをつくってもらい、技術アドバイザーのOKが出たものについてだけキヤストとして表示されます。

――働く方にとっても働きやすい仕組みができているように感じました。

そうですね。家事や育児、介護などをしながら隙間時間に作業している方がほとんどなので、「スピード重視」などはうたっていません。それでも、洋服をお預かりして10日前後でお客さまにお戻しできています。

  

あとは、お客さまがキヤストを選ぶ際に、前回と同じ人を自動的に選べる仕組みにはしませんでした。家族の介護や体調不良などで都合がつかないこともあるので、キヤストの負担にならないよう、その都度対応できる人を表示しています。

  

それでも、お客様とキヤストの過去のやり取りは共有しているので、違うキヤストを選んだ場合でも再度細かい説明などをする手間はありません。

――一番多い依頼は何ですか?

Tシャツやトレーナーの「前開き」が1~2割で、あとはさまざまです。メニュー表以外の依頼も半分ほどありますよ。

前開きになっている黒のボーダーが入った白いTシャツ

スキーウェアや着物、水着、レインコートなど、幅広くお受けしています。ただ、レザージャケットはレザー用ミシンがないので、ニットはほどけてしまう、という理由でお断りさせていただいたことはあります。ありがたいことに、今までクレームはほぼありません。

快適さを知ってもらい、「ファッションを楽しむサービス」へ

――働きたい、という方も多いのでは?

応募いただくこともあるのですが、現状15名のキヤストで回せているので、もっと注文件数が増えてきたらお願いしたいと思っています。

  

お客様のリピート率は70%なので、一度使っていただくと良さがわかってもらえるのですが、まだ認知度が低いのが課題です。

車いすでは着用が難しい細身のジーンズをお直し、その細身のジーンズを着用して車いすに座る女性と、ボタン留めをマジックテープ留めにお直しして脱着しやすくしたTシャツを着ている女性

「着たい服が着られるようになる喜び」や「着やすい服の快適さ」をもっと知ってもらう仕組みが必要だと考えているところです。

――ほかに課題はありますか?

収益ですね。サービス開始時は利用しやすさを第一にして、「儲けはあとからどうにでもなる!」と赤字にならない程度で始めたのですが、事業を続けていくためには収益が必要です。

  

始めたからには責任があるので、事業を続けるために収益を上げていくのが今年の目標です。それには、今まで培った知見やノウハウを企業さんに提供してコンサルタント料などで収益をつくっていきたいですね。

「キヤスク with ZOZO」のロゴ

昨年は株式会社ZOZOと協業で、ZOZOTOWN上でファッションブランドがインクルーシブウェアを受注販売できるサービス「キヤスク with ZOZO」を始めました。アパレル企業との協業を増やすことで、キヤスクが「福祉サービス」というより「ファッションを楽しむサービス」として見られると良いなと思います。

インタビュー・文:青木 直