【インタビュー後編】オンラインで完結。ユーザーと縫い手をつなぐ服のお直しサービス「キヤスク」

株式会社コワードローブ 前田 哲平さん

後編では、前田さんにサービスをはじめたきっかけ、「キヤスク」という名前に込めた想い、サービスをはじめて3年たった現在の想いについて伺いました。

インタビューを終えて、記者が感じたことは、障害や病気などを抱えていると、服のことは後回しになるかもしれません。それでも、「好きな服が着られる」「楽に着せてあげられる」といった価値を、一度体感してみていただきたいということでした。


襟から左肩の部分をチャックにして開きやすくお直したトレーナーに手で触れている写真

サービス開始のきっかけは、「着る服がない」

――キヤスクを始めるきっかけを教えてください。

ユニクロで働いていたのですが、あるとき、聴覚障害のある同僚から「障害のある友人たちが、『着る服がない』と言っている」と相談を受け、「着る服がないってどういうことだろう?」と、当事者の方々に個人的に話を聞きに回ったのがきっかけです。

そんな中、2つの気づきがありました。1つ目は、「障害のある方は、我慢して服を着ている」ということ。それは、着にくい服を“我慢して”着ていたり、好きなデザインの服を着ることをあきらめて“我慢”していたり、などです。2つ目は、「たとえ同じ障害であっても、困りごとや好みは一人ひとり違う」ということ。「着る服がない=服の選択肢が極端に少ない」だと知りました。

ユニクロで障害者の人が着やすい服をつくることも考えましたが、それは本質的な解決策にはならない、と。本気でこの課題に取り組むため、「退路を断とう」と20年勤めた会社を辞めました。

そしてリサーチを続ける中、ある女性に出会います。それは、障害のあるお子さんのために独学で洋服のお直しをしている方でした。その方は、自分の子どもだけでなく同じような困りごとを抱えている方にも服を直してあげる活動をしていたのです。

襟から左肩の部分をチャックにして開きやすくお直したトレーナー
前面の下部を大きく開くお直しを施したボア生地のトップス

そこで、「『お直し』なら、服に困っているすべての人の悩みに応えられるのでは」と、「服を直してほしい人」と「服を直してあげたい人」を結びつけるサービスを思いつきました。

「キヤスク」の名前に込めた想い

――「キヤスク」のネーミングには、どんな意味があるのでしょうか?

サービスを始めるにあたりクラウドファンディングで資金を募ったのですが、そのとき、事業内容をすぐにわかってもらえるように考えた名前が「キヤスク」でした。

キヤスクのロゴ

服を着やすくする、それも気軽るに(気安く)。さらに、駅にあるキオスクに似た語感で、広く知られてほしいという願いも込めました。

――サービス開始から3年経った現在の「想い」を伺えますか?

僕は元々、福祉や社会貢献などに関心が高かったわけではありません。ただ、障害のある方たちの声を聞いて、「着たい服が着られない」「選択肢がない」というのは、不公平でおかしいと思いました。そういう状況は「嫌だな」と。

インタビュー中の前田さんの写真

課題があることを知り、ビジネスになりにくいことも知りました。でも、今までも服に困っている方たちがいて、これからも必ずいる。自分がやらなければこの課題は解決されないままだろう、と感じました。そこで、使命感のようなものが芽生えたのかもしれません。

「誰一人取り残さない」

この想いで、状況の改善に少しでも力になれるようがんばりたいと思っています。

インタビューを終えて

ケガや病気、出産、加齢、体重の増減など、今まで着ていた服が着れなくなったり、市販の服に不自由を感じたりすることは、一時的にせよ誰にでも起こり得ることだと思います。

そんなとき、急に選択肢がなくなるのは怖いことだと感じました。世の中にはいろいろな服があるのに、自分には「着る服がない」。

「僕自身は、年相応のものが着られれば十分です」と話す前田さんは、当たり前にあるはずの権利を回復しようと戦っている“戦士”なのかもしれません。

   

キヤスクでは、「裾上げ」や「丈詰め」など、よそのお店でもできる依頼は受け付けていませんが、「加齢で肩が上げずらくなり困っている」「ケガでギブスをしているので普通の服が着られない」など、一般の方の依頼も受け付けているそうです。

親しみやすく、利用しやすいよう工夫したというサイトには、「キヤスクでは、あらゆる『既製服を着やすくするお直し』のご相談・ご依頼をお受けしております」という心強い一文が。

メニューにないお直しをお気軽にご相談くださいということを示すキヤスク公式サイトの案内

障害や病気などを抱えていると、服のことは後回しになるかもしれません。それでも、「好きな服が着られる」「楽に着せてあげられる」といった価値を、一度体感してみていただきたいと感じました。

【キヤスク立ち上げまでの流れ】

2000年

(株)ファーストリテイリング(ユニクロ)入社

2018年春

同僚との会話から着る服に困っている人の存在を知る

2020年12月

(株)ファーストリテイリング退社

2021年1月

(株)コワードローブ設立

2021年3月

障害のあるお子さんのお母さんと話し、お直しの可能性に気づく

2021年4月

クラウドファンディング開始。「キヤスク」命名

2022年3月

キヤスクのサービススタート

インタビュー・文:青木 直